--NAKAMURA TEA LIFE STOREが始まった経緯を教えてください。
(「NAKAMURA TEA LIFE STORE」西形圭吾さん)このお店は、自分の小学校と中学校の同級生である中村倫男君と一緒にやっていて、彼は100年続く静岡のお茶農家の息子で20代半ばから家業を継いでいます。僕は18歳で東京に出てきていて、静岡と行き来をしているなかで、中村君が家業を入った頃から仕事の話をするようになり、お茶業界の現状を知るようになっていきました。静岡にいるとお茶というものは当たり前にあったのですが、僕も東京では急須でお茶を淹れることがそうではないことを知った経験があったので、お茶の消費が減っていることを聞いて、やっぱりそうなのかと思いました。
その当時、元々デザインや映像の仕事をしていたのですが、独立を考えていた時期だったので、それならば少しでもお茶のことを知ってもらうために何かできることがあるのではないかとパッケージなどを今のデザインにして、まずはオンラインで小売を始めてから、2015年に店舗を持ちました。それまでは地元の大きな問屋さんに卸すことがメインで、直接販売ということは、ほとんどやっていませんでした。
--お店の場所を蔵前に決めたのはなぜだったのでしょうか。
蔵前というのは具体的には決めていなかったのですが、東京の西側のほうでは、すでにお茶屋さんがあったり、単純に家賃が高いということがあったので、東側がいいかなというのはありました。そのなかで友人から「最近、蔵前のことを時々聞くから、行ってみたらどうだろう」と教えてもらい足を運んでみたのが2014年9月頃です。
来る前に、蔵前で良さそうなお店を調べて、m+(エムピウ)さんやカキモリさん(2017年の移転前の店舗)を目指して歩いていると、ちょうど貸出中の張り紙がしてあったのが、今のこの場所です。張り紙の電話番号に電話をすると不動産屋さんで、大家さんに連絡を取ってもらい、大家さんは上に住んでいらっしゃるので、すぐに出てきてくださいました。そして中を見せてもらって、ここにしようと。初めて蔵前に来て、まだ1時間ほどでした。
--お店を作っていくにあたっては、どのようなことを考えて進めていったのですか。
お店だけではなく、デザイン全体的になのですが、売るものがお茶ということで、新しいものを売っているわけではなく、昔からあるものを、少し見せ方を変えることで価値の再発見に繋がるようにできないかということは考えています。
この場所も借りた時には、かなり雑然としていたのですが、元々あったものを壊すのではなく、汚かった部分はきれいに塗るなど、極力手を加えないようにしました。置いてある木箱は中村家で昔使っていた茶箱というもので、中がトタンになっていて、お茶を保存したり、輸送したりするためのものでした。
--店名についてなのですが、「NAKAMURA TEA STORE」ではなく「LIFE」が入っていることに、この場所を訪れる人たちへの伝えたい何かがあるように感じました。
まず家に急須があるという人が少なく、急須を持っていない人に対して、茶葉の質の良さだけを伝えても響かないので、お店で実際に淹れながら飲んでもらって、急須があるとこんなライフスタイルが待っていますよ、ということを感じてもらえたらと思っています。もちろん茶葉自体は本当に良いものなので、そこは大前提として、その茶葉と周辺環境を知ってもらいたいという意味で「NAKAMURA TEA LIFE STORE」という名前にしました。急須も販売していますし、お茶と急須のセットもあります。結婚祝いや引越し祝いに使ってくれる方が多いです。
--お店を始めてから、お客さんの反応はいかがでしたか。
やはり開店してすぐはあまり来ないだろうなと思っていたのですが、ご近所のお店の方々がおすすめしてくださって、最初のほうから1組接客していると、もう1組店内にいらっしゃるというようなバランスの良い状況でした。ほかには周辺に元々お茶屋さんがあまりなかったみたいで、地元の方がお茶を目当てに来てくれました。開店当時は今のようにいろんなお店はなかったので、地元の方からは「なんでこんなところで?」と言われることが多かったですね。
それとお店を出してしばらくしてから気がついたことなのですが、やはり蔵前はものを作っている人が多く、そういう人がやっているお店も多いので、そこに来るお客さんも、もののスペックや値段だけで判断するのではなく、作っている人の中身まで理解して帰りたいという方が多いと思います。東京には一軒の生産者だけのお茶屋さんというのはあまりないのですが、商品数は多くなくても、並んでいるもの同士の違いもそこまでなくても、その細かい違いに興味を持って、話を聞いてくれるんです。
--今後の「NAKAMURA TEA LIFE STORE」はどのようになっていくのでしょうか。
僕たちが扱っているものは本当に中村家のものだけなので、僕たちにとっての新商品は新しい品種の木を植えることになるんです。今年、3年前に植えたものが、ようやく少しだけ商品にできるかなというところです。この新商品をきっかけに、これまでの商品は全て機械で加工していたのですが、昔ながらの手もみを中村君が覚えてやります。かなり手間が掛かって、技術が必要なものなので、若い人はほとんどやっていないのですが、お店でも実演してもらい、作り手が直接思いを伝えられる場所にしていきたいと考えています。